***イルミネーション



『クリスマスにケーキは基本だろ!』
 という俺の意見を無理矢理通して、コンビニで2人でショートケーキを買って帰った。きっとあの可愛い店員さんには男2人で寂しいクリスマスなのねと笑われただろうがまぁいい。そんなことはどうでもいいのだ。それよりも気になったのは、斉田にクリスマスの意識が全くといっていいほどなかったこと。
「つーか、クリスマス好きじゃねぇし」
「は?!」
 そんな基本からアナタ!
『嫌い』と言わなかった辺りは精一杯の心遣いなのだと受け取っておくとして。
「熱心な仏教徒だったか?」
「違うけど」
「じゃ何でだよ、いいじゃん、楽しいじゃんクリスマス! キラキラしてパァッとしてワクワクするじゃん!」
「お前……何か可哀相なくらいバカだなぁ」
「何だと?! クリスマスを楽しめないお前のが可哀想だよ!」
「いや別に」
 何てことだ。今までいかにお互いを理解できていなかったかがひしひしと身に染みてくるぜ……
「だって何か、企業に踊らされてる気がして気に食わねんだよな」
 しみじみとそんなことを言いながら、斉田はちびちび酒を飲んでいる。バイト後だと言うのにろくな飯を食ってない。あるのは買ってきたつまみだけだ。
 ありえねぇ……なんだこの、くたびれた感じ。
「でもよ、彼女いたらそんなこと言ってらんねぇだろ」
 だって女の子はクリスマス大好きだし、「クリスマス嫌い」なんて言おうものなら怒られて当然だと思うのだが。
 するとヤツはあっさりと言いやがった。
「そうだな、まぁ彼女だったら、さすがにしてやるかな」
 あ、なんか今イラッとした。
「へぇ、彼女限定、なわけ」
 俺だってさ、一応さ、こんなに楽しみにしてる派なのにさ。女限定なんだ。へぇ。ふぅん。
「何だよ」
「別にっ」
「お前さぁ」
「何だよ」
「女女って、気にしすぎじゃねぇ?」
「そ……」
 そんなの、お前が、女にばっか優しいからだろ。なんて言えるか。
 言葉にできなくて、ベッドに転がってた爪の長いクマのぬいぐるみ(俺がゲーセンで取った)をぎゅうぎゅう押しつぶしていると。
「ヤキモチ?」
 いとも簡単に言いやがった!
「ふざけんなぁぁぁ!」
「お前バカ、隣りに怒られるだろっ」
 今度は俺の頭がベッドにぎゅっと押しつぶされた。
「イテェよバカ、首折れるっ」
「折れるか」
 本当、何なの。分かってんならちょっとは優しくしてよ。そりゃ優しいお前なんか気持ち悪いって言ったけどさ、でもこんなのってあんまりにも色気がないというかさ――そう、色気。
「じゃあ、優しくしなくていいからさ」
 ぬいぐるみを持って小首傾げて、精一杯可愛さ溢れる仕草で顔を覗き込み、
「エッチしよ?」
 さりげなくボディタッチ。したのに。
「今飯食ってんだけど」
「おっ……」
 おのれ――!! 人の一世一代の誘いを!!
「お前にはムードってもんがないのか!」
「いや、そりゃこっちのセリフだろ。そんな急に言われてハイしましょうってなるかよ。考えたら分かんだろ」
「……!」
 考える余裕なんて、ございませんでしたよ。悪かったな。何でそんな冷たい言い方するんだよ。
 ていうか俺、素直になったよな。何でそれを認めてくれないんだよ。なんかすげー悲しくなってきた。あれ、違うな、苛々、むかむか? よく分かんねぇ。どっちにしろなんか泣きそうだ。
 俺は顔を背けて立ち上がった。
「……帰る」
 もう知らねぇ。お前なんか、吸いすぎ飲みすぎでくたびれちまえ。
「――これ」
 部屋を出ようとした俺の目の前を遮ったのは、バイト先の袋。漫画一冊入るくらいの、小さいヤツだった。
「え、何?」
 斉田は眉間に皺を寄せて、妙に苦いような表情で、
「お前さ、クリスマスに発売のCDで、欲しいって言ってたの、あるだろ」
「まさか……それ?」
「いらねぇならいーけど」
 ちょっと待て。あのクリスマス嫌いって言ってたこいつが、クリスマスにプレゼントって……しかも、袋から出してみると、例のクリスマス仕様包装紙でちゃんとラッピングされているではないか!
「お前、これ……」
「あーだからやなんだよこういうの……!」
 斉田はそう言って、頭を抱えて座り込んでしまった。俺もつられてしゃがみこむ。
「え、何でやなんだよ、超うれしいよ俺」
 だってこいつが、俺の言ったこと覚えてて、俺のために買ってくれて、自ら包装してくれたんだぜ? ありえねぇよ。ありえねぇからこそ、何この怒涛のうれしさ。やべぇ、どっか飛んでいけそう。じゃあ飛んでけば?って言われるとまたむかつくから言わねぇけど。
 斉田はガシガシと頭をかいて、俺の目を全く見ようとしない。
「だって、あんまこういうのすると、お前引くだろ」
「は?! 何それ! いつそんなこと言った?! プレゼントで引くとかねぇだろ! ほんっと、何て言ったらいいのかなぁ、この喜び……!」
 そうだ、こういう場合は体で表現ってやつ?
 俺はぐっと距離を詰めた。
 頭を抱えるその手をどけて無理矢理目を合わせると、斉田は一瞬固まったが、そのまま強引にキスをした。やった、やってやった。自分からは初めてだ。女とは全く違う、その乾いた唇に触れたのは一瞬だった。
「……酒くせぇ」
 すごいドキドキしてるのをごまかすように俺は笑うが。
「お前もな」
 至近距離で聞こえたその声のせいで、動悸が更に加速してしまった。こいつの声って、こんなに心臓に悪かったのか。見くびってた。
 眼鏡を取った斉田が、目を合わせる隙もなくもう一度重ねてきた。びっくりした、一瞬だけじゃ足りなかったのがばれたかと思った。でもこいつもそうだったんならそれはうれしい。
 何回か角度変えて重ねて、触れるだけじゃ物足りなくなって、こっちから下唇を甘咬みすると、ん、と低い声が漏れた。ちゅ、と音を立てて吸い付くと、熱い舌が俺の中に。それだけで背筋が震える。頭がくらくらするのは酔いそうなほどのアルコール臭のせいか、今までにないほどの密着に頭がついていかないせいか。どっちにしろ、おかしくなりそうなくらい気持ち良い。
「俺、やばい……」
 息子さんが大変なことに。
 自分のを見下ろした次に斉田のも見ると、お前もか!な状態を発見だ。やべぇ、うれしい。
「なぁ……やってやるよ」
 息の上がった状態で俺、ヤツのベルトを外しだす。あああ俺ヘンタイっぽい。まさか野郎のなんか見て興奮する時がこようとはな。
 トランクスに右手をつっこんでとりあえず握った。我ながらその恐る恐るな触りようはまるで処女かっつー勢いだ。いや、でも男は初めてだし。仕方ない。うん。つか、どういう顔していいかわからん……当然表情を伺うこともできなくて俺はどうでもいいことを言ったりなんかして。
「お前のって、初めて見た」
 すると、少し掠れた声が耳元に。
「俺はあるけどな、お前の」
「え、マジで?!」
「よく人んちで風呂入ってただろうが。無防備に」
「あ、あれは……」
 無防備って何だ。そんな人をバカみたいに言いやがって。
 思わずぎゅっと手に力を込めてしまった。
「誘ってたんだよ、気付けバカ!」
「気付くかっ」
 いてぇよ、と頭突きされた。こっちがいてぇよ!
 って、おかしい。こんな時なのに何でこうなるかなぁ……!
「俺が悪いのか……?」
 だってでも、斉田だって乗ってくるしさぁ。バカとか言い過ぎ? いや、こいつも言ってるしさぁ。
「何だ、急に反省すんなよ、気持ち悪い」
「んなっ、人が珍しく……!」
「つか、俺も大概気持ち悪ぃけどな……」
 は? と聞き返すと、斉田は俺の肩にコテンと頭を乗せ、言った。
「え?」
 小さすぎて、その上内容が突飛すぎて空耳かと思ったけど、奴は言った。確かにこう言った。
 ――お前が可愛く見えるなんてな。
「ちょっ……」
 どんな顔で言ってんのこの人。あでも今顔見られるとやばいのはこっちも同じだ。肩に乗った顔を覗き込むのをやめて、俺は右手の動きを再開させた。ヤバイ、顔にやける。だってそんなことこいつ今まで一言も言ったことねぇし。素振りすらみたことねぇし。この、ムッツリめ。
「お前も、してやるよ」
 斉田の手によって現われたそれは、まだ触れてないのにこんな状態……お前どんだけ好きだよって感じだ。そうだよ好きだよ。って開き直っていいですか。だって触れられた途端、そんなことどうでも良くなってしまった。
「んっ……」
 思わず声。上下に擦られて、それだけでいきそうになる。
 斉田の左肩に額を押し付けて必死に奥歯を噛み締めていたら、手を動かしながら斉田、
「お前、声ヤバイ……」
「なっ」
 これでも我慢してんのに! 男の喘ぎ声なんかキモイと思って。
「悪かったな、堪え性がなくてっ」
 涙目で睨むと、妙に熱っぽい目が近づいてきて、唇が重なった。え、意味がわからん。まぁ、いいや。
 そのまま噛み締めていた歯を解くような斉田の誘導にあっさりと陥落。指先では先端をぐりぐりと押されて、思わず声が漏れてしまった。
「あっ――」
 俺の握っている斉田のもビクッと震えた気がした。熱い息に混じって斉田の声。
「藤波、手……」
 止まってる、と指摘され、すっかり忘れていたことを思い出す。ヤバイ、翻弄されすぎ。でも、もうどうしようもない。
「な……俺、もうっ……」
「イク?」
「んっ……」
 手が速くなった。俺もつられる。斉田の左手が俺の首筋を引き寄せ、キスも深くなった。たまらない。俺も左手で斉田の二の腕にしがみつき、あぁやっぱ好きなんだ、と実感した瞬間、達していた。
「んんっ――!」
 余韻に浸る間もなく、斉田もイった。間一髪で受け止めた手の平が熱いのでどろどろになる。気のせいだろうか、いつもよりずっといやらしく見える。
 ティッシュどこだろうと、荒い息をついて部屋を探していると、またもやキスされた。
「なっ……ん、斉田……」
 こいつ、キスしすぎ。や、うれしいけどさぁ。なんかもう唇熱持ってきたし。
 なんなの、と若干抵抗を見せると、
「お前唇、なんか異様に柔らかいよな」
 そんなことを斉田が言う。それだけならまだ良かったものの。
「女みてー」
「なっ」
 それは言っちゃいけないお約束でしょう!
「女女って気にしてるのはお前の方だろーが!」
「別に気にしてるわけじゃねぇよ。ただ比べただけで」
「それを気にしてるっつんだよ!」
 って、あれ、なんでまたこんな展開?
 ……。
「ケーキ食べるか……」
「そうだな……」
 まぁ、もう諦めましょう。きっともうこれは運命なんだよ。いいんだよケンカしたって。そこに愛があれば。
「あっケーキ冷蔵庫に入ってねぇじゃん! 何やってんだよバカ!」

 ある……のか?




END


大遅刻の上、お題にそってない・・・!(大問題)
すみません!
なんかいろいろすみません・・・
続きとか書けたらなぁと思っておりますが、どうなることやら。