***願いをかけた靴下






『好きなんだけど』
 告ったのは紛れもなく俺からで。
『じゃ、付き合う?』
 あいつも確かにそう答えた。

 入学した時から顔は知っていたけど、遊ぶようになったのは必須の授業で隣になってからだった。眼鏡ってだけで勝手に真面目そうだなーと敬遠してたけど、奴は意外とノリがよくて、何というか、その隣は居心地も良かった。
 気の迷いかもしれないと思ってた。俺は付き合ってた彼女にふられたとこだったし。斉田みたいに女の子に優しくできたらふられることもないのかな、とか思ってずっと見てたら、あんなふうに優しくされたいななんて明らかに気の迷いみたいなもんが生まれてしまって、それで、酒の勢いを借りてあのセリフだ。まさかあんな答えが返ってくるとは思ってなかったけど。
 お互い気の迷い。でも、それでもいいと思ってた。付き合うってだいたいいつもそんなもんだったし。向こうも飽きたら言うだろう。もうやめようって。
 だけど、半年経っても飽きないどころか、こんなグルグル悩むほどの存在になってるって、男相手にどうなんだ自分。未だキス止まりなことに不安感じてるとか、どうなんだ。そんな自分に反して、あいつの中じゃもう既になかったことになってるんじゃ、という不安が、ないわけでもなくて、いやむしろそのことだけが怖すぎて、クリスマスとか、本当もうどうしようという感じで、言い出せないなんて、あぁもう情けない。
 あ、分かった俺今、酔ってるんだ。

 目を開けると、自分の部屋じゃなかった。斉田の下宿先だ。思い出した。居酒屋でかなり酔って、家に連れてけと食いついていた記憶がうっすらある。
 少し首を動かすと、カーテンの隙間から見える外はまだ暗かった。夜中の、2時過ぎ。ベッドから上体を起こし、いつ見ても物の少ないその部屋をぐるりと見渡す。
「……」
 あいつ、何でいねんだよ。どこ行きやがった。
「風呂借りよ……」
 少しだが寝たせいで酔いは醒めた気がする。ちょっと頭痛いけど。
 脱いだ服はもう放置だ。だって俺を放置したあいつが悪い。ジーンズと一緒に脱いだ靴下が真っ赤で、思わず笑ってしまった。吊るしといたらサンタクロースにプレゼントもらえるかな。使用後の靴下は却下かな。今欲しいものは、そうだな……愛? なんちゃって。
 あー、寒い。


「何やってんだよ、お前」
 風呂から上がると、斉田が俺の服を拾ってた。
「お前こそどこ行ってたんだよ」
「煙草買いに行ってたの。お前担ぎながらは買えなかったからな」
「そりゃすいませんね」
「つか、まだ酔ってるくせに風呂入るなよ、危ないな」
「もう大丈夫、って……」
 斉田がバスタオルを頭からかぶせてきた。俺の持ってたバスタオルは肩から下だけを覆っていたので、見るに見かねてのことか。
「ちゃんと拭けよ」
「……じ、自分で出来るっつの!」
 ああもう違うだろ俺! せっかくのコミュニケーションを……!
 バッとタオルをひったくって離れる俺に、斉田は一つ溜息をついて言った。
「お前さ……何で風呂?」
「は? そりゃ……煙草臭かったからだよっ」
「あっそ。悪かったな」
 そう言って斉田はジャージを渡してきた。トランクスまである。
 そうかそうか……手出す気はないってことか……恋人が裸で目の前にいるってのにその気ないってことは、もうあれだ、だめなんじゃん。
 諦めてそれを着込みながら、俺は駄目元で言ってみた。
「なぁ、クリスマスってどうすんの?」
「あー、多分バイト」
 ――俺の我慢、限界を超える。
「あーっそ。よーく分かったよ」
 この、バカ!




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