***行方不明のクリスマスカード




 あーもう信じらんねぇ。
 世間はこんなにクリスマスムードでうきうきしてるってのに、何でこんなに苛々しなきゃなんねーんだ。俺だけ。毎年何だかんだで楽しいクリスマスを送っていたこの俺がよ。
 全部こいつのせいだ。
 付き合ってるはずなのに、だ。クリスマスどうするとか、俺はまだ何一つ聞いてない。決まってない。挙句にさっきの発言だろ。合コンって何だ。いや、そりゃ今までは数えるのも面倒なほど行ってたけどさ。それはこいつも知ってるけどさ。でも、あの言い方が気に食わん。行ってくれば? みたいな言い方しやがって。余裕か。余裕の表れってやつか。
 つか、俺がこんなに服装とか気にしたり髪型もいじったりしてんのは一体誰のためだと思ってやがるんだ。全然わかっちゃいないんだよこいつは。それなのに日々がんばってる俺……あぁなんて健気なんだ。泣けるぜ。
「お姉さんビール一つ!」
「じゃ俺、熱燗で」
「お前最早オヤジだな」
 結局、半ば強引に一緒に帰り、俺が引っ張る感じで居酒屋で飯を食って帰ることになった。
 ビール派の俺の向かいで、斉田はさっきから日本酒を頼んでいる。酒が切れた隙に、ダウンのポケットから取り出した煙草に火をつけた。パッケージにラクダのマーク。初めて見た時から変わらない。右手で灰皿を引き寄せながらそれを緩くくわえる仕草を、俺は思わず目で追った。
「何?」
 目が合った。
「……別に」
 あああもう、こんな時だけ格好よく見えるなんて詐欺だ。卑怯だ。見慣れてるはずなのに。煙草なんて煙いだけなのに。
 頬杖をついてあからさまにそっぽを向いた。
「そういえばお前、またPOPなくなったって?」
 会話を切り出したのは斉田だった。
「あー。よく知ってんな」
「ミカちゃんに聞いた」
「まぁ、POPだからな。万引きとかじゃねーし」
 クリスマス曲を集めたオムニバスアルバムを紹介するPOPを俺が描いて貼り付けといたんだが、昨日見たらなくなってたのだ。
 ミカちゃん曰く、『藤波君のPOPカワイイから盗られたんだよ!』
「まーモテる男はツライねーってことで」
「暢気だな、お前」
「いいじゃん、別に。高価なもんでもなし」
「惜しいなぁ」
「何が?」
「俺もあれ、気に入ってたのに。クリスマスカードっぽくて」
 灰を落としながら、斉田がさらりと言った。
「へ、ぇ……」
 何だよ、そんなこと、初めて聞いたよ。つか、言ってくれればそんなカードの一枚や二枚描いてやるのに。
 なんてことを口に出せないでいる俺を見て、斉田はまたもやサラリと。
「藤波さぁ、ああいうセンスだけは良いよな」
「だけって何だよてめぇ」
「ん? 違ったか?」
「他にも良いだろ、いろいろと!」
「いろいろねぇ」
 くあーっ、もうムカツクな! 何だその笑いは!
 憤慨する俺の向かいで、斉田は煙草の火を消して立ち上がった。便所に向かうのを見届けて、俺はグラスに残ってたビールを一気に飲んだ。
「あーもう……」
 何でこんな会話しかできねーかなぁ。色気?何それ?って感じだ。
 いやいや、そんなずっと1年以上友達やってきたヤツに今更色気を求めてるわけでもないけどさ。きっと向こうもそうなんだろうけどさ。でもさ。付き合って半年経つってのに、まだエッチしてないってこと考えるとさぁ……思ってしまうわけよ。
 そうなんだよ。まだなんだよ。ありえねぇよ俺。
 だってなんか、今までと同じにはできないし。つかできるわけねーよな。男だし。ってそうだよ、男なんだよ。そこからしてありえねぇとこなんだよ。今更だけど。
 なかなかどうして、こんなに難しいもんとは思ってなかった。





NEXT→