***トップスターの導く先




「斉田ぁ、ラッピング」
「はいはい」
 物は絵本2冊。0〜3歳対象。ただでさえ色鮮やかな表紙のそれを、赤と緑と星の散りばめられた見るからにクリスマス仕様の包装紙で、斉田(さいだ)は手際よくクルクルと包んでいく。
 つーか。クリスマスプレゼントに絵本て、よくやるよなーと思う。本当に喜ぶとでも思ってんのか? 俺だったら本なんかより、そうだな、それくらいの年齢なら車のオモチャとかの方が絶対うれしい。でも実際この店では意外とそういう客が多いのには最近驚かされる。この辺じゃ一番大きい本屋だから、仕方ないのかもしれないけど。
「お待たせしました」
 声がした。もう出来たのか、と顔を上げると、斉田は手提げ袋に入れたそれを持って50代女性の客のところへ向かった。うわ。すごい営業スマイル。何だ、なんか、腹立つな。
「藤波君、もう戻っていいよ。空いてきたし」
 そう言って俺の肩を叩いたのは、書籍コーナー担当社員の逢坂さんだ。
「じゃ、戻りまーす」
「お疲れ」
 うちの店は一階は本屋で、2階はレンタルCDやDVDを扱っている。俺はいつもレンタル担当なんだが、混んでくると書籍の方にも手伝いに回ったりするのだ。
「ほんじゃ、あとよろしく」
 レジを交代する相手は自他共に認めるラッピング王子、斉田。こいつとは同じ大学の同級生だ。バイト先まで同じなのは、ここが下宿先からも大学からも近くてでかい店だったからだ。
 斉田は「あぁ」とそっけなく肯いてレジへ入ってきた。のくせに、客が来ると即、スマイル。
 てめ、ありがとうくらい言えんのか!




「おつかれーっす」
 控え室へ入ると、同じレンタルバイトのミカちゃんがケータイをいじっていた。ちなみに彼女も同じ大学だ。つーかもうほとんどのバイトが同じ学校なんじゃないだろうかという勢いだ。
「休憩?」
「うん。今日はラストまでー。藤波君もう上がり?」
「おう。あー疲れたー。今日人多いわ」
「土曜だからねぇ」
 唯一の制服であるエプロンを脱いでロッカーにがっとつっこむ。大学はもう冬休みだから、他に持って帰る荷物はない。財布とケータイはポケットに入れた。手持ち無沙汰に、ロッカーの内側についてる鏡で前髪をいじってると、ミカちゃんが言った。
「そうだ藤波君、クリスマスってデート?」
「は?!」
「だって彼女いるんでしょ」
「何決め付けてんだよ」
「何キレてんのよ。いなくても一緒に過ごしてくれる女の子くらいいるくせに」
「まー、オレが声かけりゃ簡単につかまるけど?」
「いないんだったらバイト集めて飲み会しようって言ってんだけど、どう?」
「無視かよ」
「出席? 欠席?」
「あー……」
 即答できない俺に、ミカちゃんは訝しげな顔をした。すると、ドアが開いて奴がやってきた。
「――おつかれ」
「あ、斉田君ももう上がりなんだー」
 残念、とあとに続くのが予想できるようなミカちゃんの声。ったく、わかりやすいの。こんな奴のどこがいいんだ。背ばっか高くて、眼鏡だし。俺のが絶対カッコイイつーの。
「遅かったな。何タラタラやってんだよ」
 今日は同じ8時上がりなのに、今はもう30分近く。斉田はエプロンを脱いで軽くたたみながら言った。
「上がろうとしたら客に捕まって、本探してたんだ」
 えー、とミカちゃんが声を上げた。
「そんなの社員に任せとけばいいのに! やさしー斉田君」
 斉田がふっと笑って一瞬俺を見た。
「誰かさんと違うからねー」
「なっ、お前、一言多いんだよっ」
「誰かさんは一言以上多いけどね」
「てめ……!」
 腹立つなぁコイツは! ほんとに! こんな奴のどこが優しいって?!
「あ、そういえば斉田君は25日って……」
「あーそうだミカちゃん、こないだ借りたDVD持ってくんの忘れてた!」
 大声で遮った。ちょっとわざとらしかったか。
「別にいつでもいいって、そんなの」
「そう? いやでも俺そのまま返すの忘れてたりとかよくあるからなぁー」
「ええー、ちゃんと返してよ、もう」
「わかったわかった、明日持ってくるわ、明日」
「もう、早めに返してよねー」
 そんなことを言い合っている視界の端で、くるりと背を向ける斉田。
「じゃ、お疲れ」
「ちょっと待て!」
 こいつ、何先に帰ろうとしてやがる!
「ん?」
 斉田が振り返って俺を見た。って、じっと見すぎだ。今度は俺が尋ねる番。
「何だよ……?」
 斉田は、俺を見つめた結果、言った。
「今日気合入ってんな。合コン?」
「はぁ?!」
 あのさぁ、お前、そこに直れ。
 俺たち、付き合ってるんじゃございませんでしたっけ?!




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