相合傘 |
「げ、降ってる」 「まじで。俺傘持ってねーよ」 「うそやん天気予報見てんかったん?」 「見てたけど大丈夫かなーって」 「オレもー」 「持ってるのはー……俺と安川だけか」 「だな」 「んじゃーよっちゃん入れて〜」 「はいはい、しゃーないなー」 あ。 自然な流れで関西弁ペアがくっついてしまった。 ど、どうしよう。って残された道は一つしかないんだけど……ちら、と横に目をやると、安川がビニール傘を開いていた。 俺に託された自然な流れは重々承知している。だが……いやしかし……! 「相田、入れてもらわんの?」 「いや、駅近いし俺は別に」 「何言うてんの! ここでお前が風邪ひいて明日の合コン行けんくなったら俺が困るやろ〜」 「知るかっ。つーか俺超健康だし風邪なんか……」 「ほらほら、はよお願いしぃ。『安川、イ・レ・て』って」 「おまっ……」 キモイ言い方してんじゃねぇよ……余計意識すんだろーがっ。 分かってる、変なのは俺だ、俺だけが変なんだ……あああ。 「――ほら」 頬を打っていた雨粒が遮られた。顔を上げると、入れよ、というさりげなく誘う仕草。女子がこんなんされたら絶対惚れるだろ。つーか俺女子じゃねぇけどなっ。くっそ、男前な奴め……! ……なんていう動揺を精一杯押し殺して、隣に立つ。 「……悪いな」 立ち位置的に左に肩を並べると、当然声も近づいた。 「いーえ」 あーもう何、この状況。首を絞められたみたいに頭の血が凍結している。呼吸困難だ。 だってこんなの普通ないだろ。ないない。むしろ一生出来ないと思ってた。けど、集団だと何でも出来るってのはなるほど確かにそうだ。4人もいると男同士の相合傘なんて変じゃないもんな。多分。 歩きながら、肩がぶつからないように神経を集中させる。これがまた大変で。 まさにうれしさ半分苦しさ半分といった所だ。 「お前のが背高いんやからお前が持てや」 「ええーちょっとしか変わらんやん」 前でそんなやり取りをする関西チームは、肩どころかべったり腕を組んだりしている。 ありえん、絶対無理……! 「なー、俺のが高い?」 小暮が振り向いて言ってきたのに対して、安川はいつもの冷めたトーンで返した。 「んー、そうじゃね」 「つーかどっちでもいいしな」 イラッとして俺が補足すると小暮は「なにーッ」と声を荒げた。隣で笑う声がして、揺れた肩が一瞬触れた。 反射的にびくついてしまったのがばれてないだろうか。気が気じゃない。 相合傘って、疲れる……。 「つーかさ、お前らなんか、遠ない?」 「は?」 「肩濡れるやろー……って安川のが濡れとるやん!」 「え?!」 そういえば、俺の左肩はそんなに濡れてない。その分、安川が。 「な、何やってんだよ、お前の傘だろっ」 俺以上に濡れてるってどういうことだ。っとにどこまで男前なんだよこの野郎……! 手が触れるのも構わず傘の柄を押しやると、 「そう思うならもっと近づけよ」 柄を持った手を上からぎゅっと握られた。顔が、近い――― 「あっ……ついんだよ馬鹿!!」 って俺が一番馬鹿だよなぁ! 違うそんなことが言いたかったんじゃなくて……! 「あっそ。じゃ濡れて帰れば?」 しらっとした声で安川が言った。 「あ……」 思わず腕をぎゅっと掴んでしまうと、安川がこっちを振り返った。 「くっ……あはは」 なっ! 「おま、笑ってんじゃ……」 何故か前の2人も大爆笑。 「あいちゃん捨て犬みたい〜」 「小暮てめぇ……!」 「しょうがねぇな、拾ってやるか」 にや、と安川が笑った。 ――拾ってください、お願いします。 なんて言えたら苦労しねーっつーの。 「捨ててけ、馬鹿ー!」 |
* * * |
駅に向かう途中に見た男子大学生4人組。
ほんまに2・2で相合傘してたのが可愛かったのでv
「バレバレやのに何で認めんかな〜」とか
関西コンビに言われてると良い。
本当はデレたいのにデレれない典型的ツン。