素直じゃない人 |
「安川ぁ」 影一つないグラウンドの下、笛が鳴ったな、と思ったら声が飛んできた。 駆け寄ってくるのは白いTシャツにエンジ色のジャージ。大学の体育授業に規定の体操服なんてないのだ。しかしエンジ色とは、なんて高校生らしい。大学生だけど。 「ぼーっとしてんなよ! 次交代。ほらゼッケン」 「……あぁ、」 緑色のタンクトップを受け取って、安川は重い腰を上げた。 今日の授業はサッカーだ。別に好きでも嫌いでもない。運動は平均して得意だが、特にこれと言ってのめり込むものがあるわけでもない。 しかしこの、目の前の男は実に楽しそうに走り回っていた。意外と周りを良く見てて、率先してフォローに回ったりしていたし、サッカー好きなんだな、と思って少し、妬けた。 しかし昨日あんなにやったのに良く動けるな。 半ば感心してその頭を見下ろすと、視線はその前髪に止まる。 「何だよ、それ」 「あ、これ? 邪魔だったからピン借りた」 いつも目にかかるくらいの前髪が、シンプルな黒いヘアピンで上にあげられていて、額が全開。 「……」 「な、なんだよ、変かよっ……」 ム、とした顔で相田が睨んできた。機嫌を損ねた、と見せかける表情の中に、変だったらどうしよう、という不安の表情が隠されているのはもう容易く見破れる。そういうのも全部含めて。 「べっつにー」 「なっ、はっきり言えよ、気持ち悪いな!」 「お、ゲーム始まる」 「安川!」 はっきり言ったら怒るだろ。可愛い、なんて。 ま、実際言ったことはないし、勝手に思ってるだけなんだけど。 その視線の意味に気付いたのは結構前。友達として遊ぶようになって一カ月も経たない頃だった。 さりげなく体に触れた瞬間すぐにさりげなく離れられた時なんてそれこそ嫌われてるのかと思ったが、後ろから見えた赤い耳がそうではないのだと訴えていた。そして、こっちが気付いていないような時に感じる視線とか、目が合った時動揺したように逸らす態度とか。 始めは気のせいかと思っていたのだ。何せ、自分の方が惚れていたもんだから、そんな都合の良い話があるかと思っていたし。 きっかけがあの時助けたことだとしたら、本当に手を伸ばしていて良かったと思う。 自分でもまったく不思議だ。何がツボだったのか分からない。入学式の時に見惚れていた顔を見つけて、髪型も眼鏡も違うのに判別できた自分をすごいと思ったのと同時に、これは観念するしかないのかと覚悟したものだ。 そして、その想いが実ったのが実に昨日のこと。相田はというと、今のところ不思議なくらいいつもと変わらない態度で接してきている、と思う。 「お、安川君!」 グラウンドに向かって歩いてると、知った声が聞こえてきた。 「サッカー? がんばれよー」 弓道部の先輩の美川だ。ショートヘアが整った顔をさらにすっきりと見せている。学年一の美人らしいが、その性格は男勝りで、だがそこがいいと男女問わず人気がある女性である。 図書館に行く途中なのか、渡り廊下からひらひらと手を振っている。 一応先輩なので軽く頭を下げるが、この距離では特に言葉を返すこともない。再び歩き出すと、ふと視線を感じ、振り返ると、相田と目が合った。 「……」 見ていたのだろうか。目が合うと、相田は慌てたように体の向きを変えて吉野と話し出した。 「おーい、急げ!」 教師に呼ばれて、笑いそうになるのをぐっとこらえた。 ツボなのが顔だけならこんなにハマることはなかった。 「あー昼前に体育とか超だるいなー腹減ったぁ」 「良く言う。人一倍張り切ってたくせに」 「んなことねーよ」 普通だろ、と言い切って相田は運んできたボールを籠に放り投げた。安川はポールを立てかける。 片付け終えると安川は倉庫の鍵を閉めた。ジャンケンで負けたのだ。 「で、何で俺が手伝ってんだよ……片付けは負けたチーム担当だよなぁ?」 ぶつぶつ言いながら隣を歩く相田に思わず笑いがもれる。 「あれ、手伝いたいのかと思ってた」 「んなわけあるかっ」 そう言いながら、その頬が薄く色づいているのは確認しなくても分かる。前髪をあげていたピンがなくなってるのを見て少し安堵した。そんな一面は他に見せなくていい。俺だけが知ればいい。なんて、本当にハマってる。 意地っ張りだし素直じゃないのに、不真面目に見せながら真面目で純情。そしてたまに見せる予想外な行動とかおもしろくて、見ていて飽きることがない。 初めて見た時はそんな奴だなんて知らなかった。 「あ、ネコ」 校舎に入る手前の花壇に白い猫がいた。片手を必死に動かして、良く見るとどうやら黄色い蝶と戯れているようだ。 「かわいーなぁ」 ふわん、と柔らかい笑みで見つめる相田の隣で、安川はポーカーフェイスの裏側でこう叫ぶ。 お前の方が可愛い。 「……」 『寒ッ!』と小暮がいれば叫んでいることだろう。しかしまぁ小暮なんてどうだっていい。むしろ邪魔なくらいだ。実際何回も邪魔されてるし。 しかし今まで何度心の声で連呼したことか分からない。 素直じゃない時でも可愛いのに、昨日初めてやった時のあの可愛さといったらもう、まさに狂暴だった。何度やられてしまったことか。 無理もない。日々視線だけでも既にやられてたってのに、『入れて』とか『もっと動いて』とか潤んだ上目遣いで言われてしまえば、もう理性なんてお役御免、即さよならだ。 いきなりフェラとか始まった時はもしかして慣れているのかと驚いたが、そのたどたどしい動きに安堵した。そしてそこまで思ってくれてるのかと安心した。 だけど、素直じゃないのは根っからなのか、昨日の今日で全く普通というこの状況はどうしたもんか。まぁ、だからといっていちゃつきたいわけではないが。 「あのさぁ……」 もう昼休みは始まっている。閑散とした更衣室で着替えながら、相田が突如言った。 「美川さんって、良い人?」 「……は?」 一瞬本気で、どういう意味だ、と眉をしかめると、その反応に相田は慌ててロッカーをしめた。バタン、と乱暴な音が更衣室に響いた。 「わっ悪い、何でもない」 その泣きそうな顔に、体育の時の視線を思い出した。 あぁ、妬いてるのか。 何も返答がないことに戸惑ったのか、相田は慌てて荷物を持った。 「俺、先行くからっ―――」 「待てよ」 腕を引っ張って引きとめた。 自分はまだタンクトップを着ただけだったが、そのまま腕を引き寄せて相田をロッカーと自分の間に挟み込む。ダン、とロッカーに手をつく音が結構派手に響いて、相田はビクッと首を竦めた。 「まぁ確かに、良い人だな」 うつむく頭のつむじを見下ろして言うと。 「へぇ、そう……」 強張った声がした。 「何だよ、自分で聞いといて。気のない返事だな」 「っ……」 「美人だし賢いし、優しいし」 聞きたくない、と思っているのが手に取るようにわかる。 まったく、自分がこんな呆れた性癖だとは知らなかった。反応が可愛すぎて、抑えが効かない。 顎に指をかけて上を向かせると、相田は柔らかな唇をきつく噛みしめていた。 「もう、聞きたくない?」 低くささやくと、コクコクと肯いている。 「き……たくない……」 「何で?」 「っ……」 何かにつかまりたかったのか、タンクトップの裾をぎゅっと掴んできた。その顔はもう真っ赤だ。唇が薄く開いた。 「女の人、褒めるの、なんて……聞きたくない……」 「……相田―――」 軽い眩暈は、理性のバランスが崩れた証拠だ。 唇を塞ぐと熱は一気に体中を駆け巡った。 「んっ……ふぁ……やす、かわっ……」 必死に息をしながら腕にしがみついてくる。こういうのに慣れてないところも可愛くて歯止めが利かなくなる。 「―――ちょっ……ここ学校だろっ!」 何分くらい経ったか、キスだけじゃ物足りなくなってきた頃、馬鹿! と遮られてしまった。潤んだ目で精一杯睨んでくるのもたまらない。 「お前が可愛いのが悪いんだろ……」 「…………」 あ、しまった、と思ったのは、返ってきた反応が無言という珍しい展開が訪れたからだ。 可愛いと言われて喜ぶタイプにも思えなかったので今まで一度たりとも口にしたことはなかったのだが、『可愛いって言うな!』と怒るでもなく、無反応。 それが一番怖い。 「……相田?」 いつの間にか落ちていた鞄を拾い上げ、相田は腕の中からすり抜けた。 「俺、もう行くから」 「……」 更衣室を後にするその顔が何だか泣きそうだったのが気になった。 *********** 「相田は?」 食堂に行くと、小暮が友人達と昼を食べていたので聞いてみた。 「あー、なんか探し物あるから先図書館行くって」 「……」 何で飯よりそっちが先なんだ。若干イラッとしていると、小暮が言った。 「何かあったん?」 「いや別に」 「あったんやな……」 じとっと睨まれて、安川は溜息をついた。 まぁ、小暮に相田の行方を聞くことなんてあまりないから無理もない。 「あーもう、何でお前やねん……!」 近くに他の友人もいるので、小暮は分かりにくい言葉で嘆いてみせる。こっちにとっては分かりやすすぎるが。 小暮はもともと、妙に相田を気に入っている。対する相田は小暮のうるささに辟易しているようだったが、それでもめげずにつるんでいる奴だ。そして誰よりも頻繁に相田を合コンに引っ張りこもうとしている。自分と同じ感情ではないと思うものの、それを目の当たりにするとどうにも心中穏やかではない。 大事に思うことに変わりはないのに、どうして自分は傷つけてしまうのか。何故小暮と同じ感情のままではいられないのだろう。 「何でだろなぁ……」 「うっわムカツク」 まぁそれはともかく、とりあえず今はあの泣き顔の理由を解明しなければならない。 結局図書館へ行っても見つからず、行き違いになったようだった。しかし今日の残りの授業はもうお互い違う講義なので会うことはない。 とはいえ、ここまで顔を会わせないのも珍しい。大抵は廊下でばったりはち合わせたりするのに。 避けられているのか。その可能性は高い。 となると最後の手段は、携帯だ。帰りに呼び出すか。部活はまぁ、今日は休む。 「参ったな……」 最後の授業終わりのチャイムが鳴り、安川は溜息と共に頭を抱えた。 自分がこんなに他人を追いかけるなんて考えてもみなかった。 見事にハマってる自覚は重々ある。昨日のあれで尚更だ。 初めてのくせに痛くてもいいと必死にしがみついてきた。その言葉に甘えてゴムつける余裕もなく3回だ。短い眠りから覚めた後も、結構無茶をさせてしまった。いくらでも付き合うと言った言葉を『ごめん、もう無理』と前言撤回する、情けないような泣き顔も余計劣情を煽る材料にしかならなくて、『こっちも無理』と我が侭を通して涙が枯れるまで泣かせてしまったのは、ちょっと、反省はしている。 でもそのことで怒るなら朝から怒ってるはずだ。体育の後片付けも手伝ってくれるわけがない。 となるとやっぱアレか……『可愛い』はそんなに地雷なのか。 さてメールにするか電話にするか。重い足を動かしながら廊下を歩いていると、視聴覚室の前でふと足が止まった。窓から見える姿は、吉野と、相田である。 「……」 相田はこちらに背を向ける角度で座っていて顔は見えない。吉野の落ちついた声が聞こえてきた。 「で、何でそんなショックなわけ?」 あいつ、吉野に相談してるのか。むしろこっちがショックだ。 吉野は小暮と違って、結構相田に頼られている。その事実だけでも面白くないのに、二人きりで相談とか……ショックだ。 脱力して、ずずっと廊下にしゃがみこんだ。今誰かが通りかかったら確実に変質者扱いだろうが、その時はその時だ。 「可愛いってそんなあかんの?」 やっぱりその話か、と思いながら耳を澄ます。 相田は言いにくそうに、言葉を選んでいるようだった。 「嫌っていうか……」 「じゃあ、何?」 吉野は辛抱強く聞いてあげている。そういう所が慕われるんだろう。もっとも、小暮の相手をしてあげているだけで感心するが。 「なんか……へこむ」 は? 「えぇ? 嫌じゃないのに、へこむん?」 「だってさ、なんか、気遣ってんだろうなって思うとさ……」 はぁ? 「……何それ。気遣って言ったって?」 「だって絶対そうだろ。俺に可愛いとかありえねぇだろ」 「うーん……」 「そう思うと、なんかすげー申し訳ないっつーか……」 「……」 あぁ、これはひどい具合に予想外だ。推し量れるわけがない。俺が気を遣って『可愛い』発言をし、そのことで無理に言わせたみたいな罪悪感を感じているなんて。いや、どう考えてもないだろそれは。俺は相田の中でどんなお人好し人間になっているんだ。 そもそも、相田は思い込みが激しい傾向がある。昨日も吉野と小暮に散々、安川は格好良いだの優しいだの主張していたみたいだし。うれしくないわけはないけど、その思い込みを優先しすぎて真実を認めようとしないところはだいぶ歯痒い。だいたい、お前の顔好みだって言ったことすらきっぱり忘れてんじゃねぇよ。何が「可愛いとかありえねぇ」だ。その考え自体がありえねぇ。 「じゃーまぁとりあえず、謝っとけば?」 おぉ、吉野の答えも予想外だ。申し訳ないイコール謝るってのは合ってるけど、背景をまったく考慮していない。面倒くさくなったのか。確かに自分が全然別の他人にそんなことグチられようものなら超面倒だと溜息の一つや二つついているだろうが。 「そうだなぁ……」 納得するのか、それで。 だいたいどうやって謝るというのだこんな状況。気を遣わせてごめん? 意味が分からない。 と思ってたら、話が怪しい方向へ向かっていった。 「あいつ、可愛い女の子好きだもんな。俺と付き合うより女の子の方が良いに決まってる……」 ―――ちょっと待て。 「相田」 部屋に入ると、飛び跳ねるように相田が振り向いた。 「やっ、安川?」 「ちょっと来い」 態度が多少乱暴になっても仕方ないと思う。 だって何で付き合いだした翌日に別れ話だ。冗談じゃねぇぞ。 「安川っ! 待てよ!」 比較的人の少ない別棟の方へ連れて行った。腕を引っ張っているから相田に逃げ出す術はない。 一階校舎の一番端の、陽の当たらない教室に入り、教室の後ろの壁に追いつめると安川は睨みを利かせた。 「……お前さ、基本俺のこと嘘つきだと思ってるよな」 「は? 何だよそれ……」 怖々といった体で相田が聞いてくる。 そんな顔しても無理。一回きつく言ってやらねばならない。 と、思っていたのに、目の前のその泣きそうな顔を見ていたら、だんだんと勢いが失速してきた。何で、そんな顔を見せるんだ。 「全然、信じてないつーか……」 そうだ、泣きたいのはこっちの方なのに。 コツン、と額を相田の肩に乗せて、安川は溜息をついた。 痛くても良いとか言われても、痛めつけたいわけじゃないのだ。そりゃ、意地悪する時もたまにはあるけど、本気で困らせたいわけじゃないのに。 「さっきの……聞いてた?」 「聞いてた」 顔を上げて即答すると、真っ赤な顔が歪んだ。がっしりとその両肩を捕まえて言ってやる。 「あのなぁ、俺がそんな気遣うような奴に見えるかよ。お前が好きだって言ってんだろーが」 「っ……」 何かぐるぐる葛藤している気配が見て取れる。またあらぬ方向へ飛んでいってるかもしれないが、まぁ分からないものは仕方ない。所詮他人の胸の内だ。分からないところが面白くもあると考えておいた方がいいんだろう。 「『可愛い』がそんなに嫌なら、もう言わねぇから」 だから別れるとか言うな。 後半を言う前に相田がブンブンと首を振った。 「そっ、そういうわけじゃねーよっ」 「は?」 「うれしいんだよ、うれしいんだけど……そんなこと言われて喜ぶ自分が情けないっていうのもあるし……」 女の子じゃないのに、ということか。 「いいじゃん、別に」 何言ってんだ、と笑い飛ばしてやった。 「俺があげるもんは全部うれしいんだろ」 「うっ……」 「素直に喜んでろよ」 「……ん……」 よし、素直になった。いつまで持つか分からないけど。 「安川、俺っ……」 一度肯いた後、上げた目には涙の膜が張っていて、そんな目で真正面から意を決したように見つめてきた。 「好きだ―――」 「……」 背伸びしたかと思うと、唇が重なった。 驚いた。相田からのキスだ。その手はやっぱりシャツを握っている。首に腕を回す度胸がないところも可愛いな、と思うと、もうたまらなかった。 頭を引き寄せてこちらから舌を伸ばした。 幾分性急なそれに精一杯ついていこうとする仕草も、合間に漏れる苦しそうな息使いも、何一つ残らず愛しい。これで別れるとか言い出されたら絶対怒る。 「んっ……あ、安川っ……!」 「キスだけで、こんなだ」 成長させてしまったお互いのモノを見下ろして低くささやくと、相田はぼんやりとしながらも恥ずかしそうに足を閉じようとした。 「こんなんじゃ外歩けないよな」 「あっ……」 右膝でその両足を割り、ジッパーを下ろす。 「わ、駄目、だって……!」 抵抗を無視して愛撫すると、相田は慌てて自分の口を抑えた。 「っ……!」 学校だからか。がんばって声を我慢する姿もそそるけど。 「ちょっとくらい、声出せよ」 「んんんっ……!」 嫌だ、と首を横に振っている。やばい可愛い。ちょっとこっちもむきになってしまう。 「相田……」 先端を親指で少し強く刺激すると、相田は震えてぎゅっと目を閉じた。瞬きをする瞬間こぼれおちた涙を舌で舐めとる。 「誰もこねぇから……」 むきになってんなぁ、と思いながら適当なことを言い、口を抑えてる手の甲にキスするように口づける。舌を伸ばして指の間を割るように舐めるが、ガチガチに抑えたその手は離れない。だけど呼吸の度に上下する胸はだんだん激しくなっていき、声を出させる前に達してしまった。 「……はっ、ふぁ……あ……」 ぷは、と水中から顔を出すように手を離して息をした。 「お前なぁ……」 言いかけると、あろうことか睨まれた。 「そっちが言ったんだろっ、『しゃべるな』って……!」 息も絶え絶えに相田が言った。 「は……?」 しゃべるな……? 「昨日っその……あの時に……」 言いにくそうに言われて、思い出した。 確かに昨日やってる時に言ってた。『も、お前……しゃべんな』 ってそれは違うだろ。 「あのな、あれはあんまりお前が煽るから」 これ以上煽られると暴走してひどくすると思って…… 「俺の声嫌いなんだろっ」 「………………」 うわーそうきたか。いっそ笑えてくる。 嫌いだったらこんなことするわけないのにそういう単純なところに目がいかないというのが馬鹿というか可愛いというか。 「なっ、何笑って……」 軽く唇を塞いだ。 「悪い、あれ嘘だ」 「はあ?!」 「お前の声聞きたい。聞かせろよ」 「うっ……」 そう言われたら肯くしかないのは分かってるから。 「わ、かった……」 それを確認して、もっと欲張りになる。 「うち、来るか」 「ん……行きたい……」 いきたい、いかせて―――昨日泣きながら言われたセリフを思い出して、下半身が疼いた。 とりあえず、ためしに可愛いを連呼してやろうと心に決めた。 こっちも素直になるのがフェアというものだ。 |
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安川視点でお送りしました。
相田はずっと内心安川カッコイイはぁはぁとか思ってるのよ。
好きすぎると変態になるよね☆