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「でも笑ったよなータカシの奴、女の子から痴漢呼ばわりだぜ? だからあの顔で声かけんのはやめとけって言ったのにな」 ケラケラと笑う涼太に、圭介は凝り固まった肩をまわしながらうんざりした顔で見やった。 「元気だな、お前」 ヴォン、とガスを吐きだしてバスは走り去っていく。やってきた先は田んぼ、向かう先も田んぼだ。この光景だけでもうんざりする上に、一日朝から海ではしゃいできたというのにこの体力。これからまた30分も歩いて帰らねばならないというのにまったく理解できない。 「だっておかしいじゃん。一緒にいたシンヤは歓迎されてたのにさー」 「そういう運命なんだろ」 「あはは! 運命! 言うなー圭介」 明日タカシに言ってやろ、と涼太はよく日に焼けた顔でにやりと笑った。海といえば女だろ、とナンパに精を出していた二人の友人を尻目に一人泳いでいた涼太だが、逆に何度かナンパされていたのを知ってる。つくづくこいつは人を引き寄せるオーラがあるのだと思う。思いだすと腹が立ってきた。だいたい無防備すぎるのだ。知らない人から食べ物を貰うなとか小学校で言われることだろ。 「あ、お前首んとこすげー焼けてる」 涼太が圭介の首元をじっと見てきた。白いTシャツの隙間から、普段部活で焼けてるにも関わらずさらに赤くなった首が見えている。 「痛そー」 「触んな。ってかお前もだろ」 「いてっ、痛い痛い!」 お返しに色づいたうなじを少し強く撫でると、涼太は悲鳴を上げて身をよじった。ちょっと涙目になっている。 「お前、加減しろよな!」 「したぜ、充分」 「うそつけっ」 涼太は逃げるようにその足を速めた。距離が少し離れた。その足元には長い影。太陽が落ちるまでもう少し。 「あ……きれいだなぁ」 不意に、そうつぶやいた涼太の視線は少し遠くを見ていた。そこは村が管理しているひまわり畑だった。朝も横目に見た光景だが、夕日の中で見るとまた違って見える。隣に立ち止まり、圭介もこくりと息を飲んだ。しかしそれはひまわりに対してではない。細い髪をなびかせてじっとそれを見ている涼太の横顔もまた、なぜか違って見える。 そっと手を伸ばし、今度はさっきの十分の一ほどの力で首を撫でると、ん、と微かな声が漏れた。 「何だよ?」 怪訝な目が振り向いた。 「……」 「――圭介?」 腕を引っ張って道から逸れる。すぐ傍の大きな木に押しつけるように涼太の口を塞いだ。 「んっ……ちょっ……んだよ、圭介!」 「ちょっとだけ」 「お前も充分元気じゃねーかっ」 「あーそうだな」 「そうだなじゃなくて……って脱がすな!」 「昨日我慢した分だよ」 「なっ、だってお前絶対痕つけるしっ……て、ちょっ、けいっ……!」 煩い口を塞ぎながら慣れた手つきでハーフパンツを下ろす。いくら木の陰、夕方とはいえ、人が通りでもすればまだよく見えるこんなところで。 涼太は焦って逃げようとするが、たくましいその腕から逃れることは容易くない。下着まで下ろすと、うそだろ、とその目が不安げに圭介を見上げてきた。少し充血した赤い目が誘うように潤んでいる。 「やだ、こんなとこっ……!」 「あぁ……そういう顔するから」 ぞくりと背中が震える。 「一回だけ、な」 肩を木に押しつけて耳にささやく。返答なんて聞かない。両足の間に自分の右足を差し入れ、露出した股間を自分の太股で刺激する。同時に後ろの穴をほぐし始めると、自分のシャツにしがみつく両手ががくがくと震えだした。 「あ、や、ぁっ……!」 抑え気味の声が小刻みに漏れる。もっと、もっと聞きたい。 指を増やしながら唇を塞ぎ、熱い舌を絡め合う。交わす息もいつもより熱い。おかしくなりそうだ。溶けるような熱い目が至近距離で見つめてくる。 「けい、すけっ……」 「っ……」 もう半ば合図になりつつあるそれに、圭介は一気に貫いた。 「んっ―――」 一瞬だけ蝉の声が聞こえなくなった。 「――あっ、んっ、いたっ……痛い、けいっ……!」 涼太が泣きそうな悲鳴を上げる。いつもと違うその声に、今更に日焼けの存在を思い出した。背中とか木の肌に擦れて痛いはずだ。泣き顔もそそるが、このまま日焼け痕を痛めつけるのはさすがに可哀想になり、腕を引いて涼太の体を反転させた。 「はぁっ……」 木に両手をつく涼太の腰を後ろから抱えて再び挿入する。2度目に咥えるそこは簡単に飲み込んでいった。 「あ、あっ、あっ――」 突くたびに小さな声が漏れる。必死に我慢しようと自分の腕に噛みつく涼太の口を強引に引き離して自分の唇で塞いだ。 「んんっ……!」 「……なぁ、見ろよ」 視界の端に映る黄色に、圭介はくすりと笑みを漏らした。 「え?」 「すげぇ見られてるぜ」 少し視線を逸らすと、先ほど眺めていたひまわりがこちらを向いているのが見える。全部が一斉に、まるで目のように。 「なっ……」 耳元で囁く声に、涼太が動揺するのがわかった。一瞬締め付けがきつくなる。 「何だ、感じてんのか?」 「ち、ちがっ」 「へぇ、見られて興奮するんだ、涼」 ヘンタイ、と耳を舐めると、繋がった場所がさらにうずいた。 「っ……バカ、圭介っ……!」 どうにか首をひねって睨んでくる涼太の涙目に、反省なんてできるわけがない。 「いいじゃん、見せてやろうぜ」 「やっ、やだやだぁっ――」 言葉の割にきつく咥えて離さない腰をしっかり掴み、圭介は少々荒く突きあげた。涙の混じる嬌声が耳に心地よい。重症だな、と思いながら、熱を持った首筋に軽く歯を立てる。触れる舌からはほんのり塩の味がした。 「っぁ……けいっ……圭介っ……!」 「いきたいのか?」 「っ……!」 コクコクと首を縦に振る涼太。その顎を持ち上げて、目から溢れる涙を舐めとる。 「だったらお願い、するんだろ」 「ぁ……」 ゴクンと唾を飲んで涼太は赤い目をうっすらと開いた。濡れた睫毛が震えてる。 「……き、たい……」 「ん? 聞こえない」 「……いき、た……いかせて、おねがいっ……!」 キュウときつくなる締め付けに、我慢などできるはずがない。 「涼っ……」 「あっ! けいっ……!」 甘い声。溶けそう。 「くっ……」 「あぁぁっ―――」 たまにこの感情が怖くなる。暑くてたまらないのに、一時も手放したくない、ずっと繋がっていたいとかいう独占欲。そんなの不可能だと分かっているけど、それが分かるから余計にそう思うのだろうか。 「……はぁ……」 涼太がいった直後、すぐに引き抜いて自分も外に放つと、サンダルを履いた涼太の踵を白く汚した。 「も、最悪……」 木にしがみついたまま、溜息まじりに涼太はつぶやいた。 「んだよ、気持ちよかったくせに」 「っ……!」 「ほら否定はできない」 「うっさい!」 海で使用済みのタオルを取り出して拭こうとすると、涼太は「自分でやる」とタオルを奪った。 「お前のせいで、目にしか見えなくなったじゃん……」 服を着直してから、あーあ、と涼太は視線をひまわりへ向けた。とうに日は暮れているが、薄暗闇の中でも黄色は存在を主張している。 「ははっ」 「はは、じゃねぇよ」 「いいじゃん。どうせ今年で見納めだろ」 「……」 潤んだ目が見開かれて、まじまじと圭介を見詰めた。 「別に……最後ってわけじゃねぇし。盆とか正月とか、帰ってくるし」 「そんなのわかんねぇだろ」 「何で決めつけるんだよ」 「サークルとかバイトとかあるんだろ、大学」 「だからまだわかんねぇし」 あぁなんだか、どうしようもないことなのに苛々する。 困らせたいんじゃない。そんなわけない。余裕で見送ってやるつもりだった。 「圭介……?」 両腕で抱きしめた。まだ海の匂いが残ってる。 「どうしたんだよ、圭介?」 背中に回ってきた涼太の手はためらうようにそっと圭介の背をさする。違うそんなんじゃなくて、もっと強く抱きしめて欲しいとか、いつからそんなに弱くなった。 「もう帰ろうぜ、な?」 「んー……」 「んーじゃなくて……離せよ」 簡単に離せるようなら苦労はしない。 「……お願いしろよ」 「は?」 「さっきみたいにさ。『行かせて、お願い』って」 「っ……バカ圭介!」 ドスッと腹に軽く拳が入った。 「ってぇな……」 仕方なく手を離してやる。体温が離れる感覚にたまらなくなり、思わずつぶやいた。 「っとに、バカだよなぁ……」 「あぁバカだよ」 冷たく言い切った涼太が歩き出す。 追いかけるべきか、ぼんやりしているうちに距離は開く。開いてしまう。 すると10メートルほど離れたところで涼太が振り向いた。 「俺は、圭介と離れるつもりとかないからな!」 「……」 持ち上げた人差し指がひまわりの方を差した。 「ほら、証人付き」 たくさんの目がこっちを見ている。 「――ははっ」 あまりのあほらしさにようやく足が動いた。 「いらねぇよ、そんなの」 証人なんかいらない。ただ自分を見てくれるたった一人の目さえあればいい。ただその目に、目標見据えて突進していく強さがあり続けることを願ってる。だから。 「俺も。離れるつもりねぇよ」 「だったら大丈夫じゃん。な」 大丈夫だって、と涼太がくり返した。独り言のような大きさだったが、圭介の耳にはしっかり届いた。 |
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