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「和田っち、見つけたぜ!」 「……おまえなぁ、今何時だと思ってんだ」 仕方なく窓を開けてやると、生温かい風がふんわり入ってきた。風呂上がりは汗をかきたくないから寝るまでクーラーがんがんにきかせてるのに、せっかくの冷えた空気が外へ逃げていってしまう。 「入るんなら早くしろよ」 「いや待て、和田っち出てこいよ」 「はあ? ふざけんな」 「あーじゃあここでいいや」 「だから窓閉めたいんだって」 「ちょっとだけ、すぐ済むから!」 「だから何がだよ」 「ほら、赤いひまわり」 そう言って大村が暗闇の中、俺に見せたものは、赤いフィルムをかぶせたらしき懐中電灯で照らした手のひら大のひまわりだった。 「……何やってんの」 「いや、だから赤いひまわり」 「って赤く照らしてるだけだろ」 「でも赤いだろ?」 「ライトのせいだろうが」 「でも赤いじゃん!」 「屁理屈言うな」 何なんだ、この男は。付き合い長いはずなのに一体何がしたいのかまったく……あ。 ――赤いひまわりってあると思うか? ――何それ、ねぇだろそんなの。 その件について議論していたのが1週間くらい前のこと。 絶対あるって、とやたら粘るこいつは、『じゃ俺が持ってきたら和田っち一日俺の下僕な』とかあほなことを言いやがった。それから話題にもならなかったからすっかり忘れていたけど、まさかこんな風にがんばっていたとは。いや、単細胞なこいつのことだからふと思いついて勢いでやってるだけだろうけど。家が近いと時間問わず襲撃されるから困る。 「大村……残念だけどそれは認められない」 やれやれ、と窓越しの肩に手を置いてわざとらしく首を振ってみせる。体温の高い肌は汗でじっとり湿っていた。 「明るい所じゃ赤く見えないだろ。せめて色でも塗ってりゃよかったのにな」 そういう問題じゃないんだけど、とりあえずもっともらしく言ってみる。 「はっそうか、色塗ればよかったのか……!」 「……」 あぁ、馬鹿だなぁこいつ。 飛んで火に居る夏の馬鹿、って感じだ。いつか進んで身を滅ぼしかねない。 「……かわいそうに」 「えっ何が?」 「強く生きろよ」 「ちょっと和田っち?! 何その遠い目!」 「まぁ、気にするな」 「いや気になるし!」 「だいたいなぁお前、俺に命令しようなんざ百年早いんだよ」 出窓に頬杖をついて、同じくらいになった視線の先にある額を指先で小突いてやる。しかし可愛げのない大村はびくともせず、汗ばんだ手で俺のその手を掴んだ。 「じゃあさ、半分だけ」 「はあ?」 半分って何だ……下僕の半分? 半分でもおまけしすぎだろ。 と考えてる隙に、目の前が暗くなった。 「―――なっ……」 「じゃ、また明日!」 「は?!」 ちょっと待て、と言う間もなく奴は走っていった。片手に持ったつけっぱなしの赤いライトがあちこちを照らしまくってるという異様な光景に、いつもならツッコミを入れてるはずだが。 「あいつ……!」 あんなことしといて何平然と「また明日」?! ものすごい馬鹿なのか、それともものすごい策士なのか……いや、後者はないだろうと思いたい。 でも何より一番分からないのは、嫌じゃなかった自分の心理…… 「えーマジで……?」 触れた唇を抑え、窓も開けたまま座りこんでしまった。 その手には、いつの間にかひまわり。 |
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