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「こらお前、何してんだ!」 真崎は焦った。 自分が春先から大事に大事に育ててきたひまわりを、いまにも摘み取らん勢いで触ってる輩がいる。これは非常事態である。 慌てて駆け寄り腕を引っ張ると、そのけしからん輩は振り向いて呑気な顔を見せた。 「あれ?」 「あれ、じゃねぇよ。早くその手を離せ」 どう見てもやんちゃなタイプな生徒だがしかし真崎は憶することはなく、それどころか気丈に相手を睨みつけた。相手がどんな奴だろうが関係ない。でないと、こんな校内の片隅の花壇なんて管理できないというのだ。 と気合を入れていたにも関わらず、返ってきた反応は予想外のものだった。 「真崎先輩!」 「は?」 「俺の好きな花!」 「はぁ?」 知らねぇよ。ついでにお前のことも知らねぇよ。 不信感満載な真崎にも関わらず、その生徒はにぱっと人懐こい笑みを浮かべた。いや、どんな友好的な顔されても知らないものは知らない。後ろでくくった茶髪に赤いピアス、半袖カッターシャツの下の柄Tシャツ。品行方正で地味な自分にこんな知り合いなどいるわけがない。 「お前、何?」 先輩と言ったところをみると年下なんだろう。身長は負けてるが。しかしなぜ名前を知っているのか。 「あれ、覚えてない?」 「だから何だよ」 「入部したいって言ったらだめだって言ったじゃん」 「は?」 ただでさえ人手不足の園芸部が入部希望の生徒を断るなんて……と思ったところで、数か月前の記憶が顔をのぞかせた。あぁそういえば、そんなことがあったような気もする。 春先、入部希望の新入生の中で一際悪目立ちする姿があり、絶対やる気ないだろと見た目で判断して「ひやかしなら帰れ」と追い返したのが約一名。でもそんなのいちいち顔なんて覚えていない。 「でもやっぱこれみたら入りたいなって思ってさ」 そう言ってまた、肩の高さまであるひまわりにそっと手を伸ばす。その穏やかな行為に、思わず制止するのを忘れてしまった。 意外。本当に好きなのか。 不意をつかれて言葉をなくしていると。 「でも前断られたしまたダメかなーとか、頼み込んだら大丈夫かなーとか、こいつで花占いしてみようかなーとか」 「お前ふざけんなよ」 「あはは冗談、冗談」 「……」 確かにちょっと、ひまわりの花弁で花占いは見たことないなとか思ってしまったけど。てそうじゃなくて。 でも、ひまわりの隣でそんな無邪気な顔で笑われると、ちょっと拍子抜けしてしまう。 「ダメっすか?」 「……本当に、好きなんだな?」 確認すると、一年はひまわりから手を離して真崎に一歩近づいた。 「うん、好き!」 「……」 くらりと、眩暈がした。 いやいやいや違うから、ひまわりのことだから。ていうかそんな単語真正面から顔見て言うなよ。 腹が立ったわけでもないのに頭に血が上る感じ。熱くなった顔を伏せ気味に、真崎は諦めたように言った。 「ちゃんと、続ける気あるんだろうな」 「当然!」 「毎日見るんだぞ」 「うん、毎日、ずっと見てるから」 「……わかった」 顔を上げると、その視線はひまわりでなく自分に注がれていて。 「っ……」 「なに?」 「いや……なんでもない」 目の前のうれしそうな笑顔に何だかよく分からないがものすごく恥ずかしくなって、再び視線をそらしてしまった。 |
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