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「根本ー海行こうぜ、海!」 どっかん、と熱の塊が飛んできた感じ。いつもこうだ。全身でぶつかってくるから暑苦しいったらない。避けられない熱風に仕方なく、俺は文庫本から顔を上げた。 「……は? 何、急に」 「だから、海行こうぜ!」 そう言って、窓の桟に腕をかけて覗き込んでくるいつもの姿。サッカー部の赤いユニフォームは既に汗で色が変わってる。黒い髪もまるで水浴びでもしたかのようだ。 「なぁなぁ!」 夏、暑い、海、という構図は理解できるが。 「嫌」 返答は決まり切ってる。 「じゃプールは?!」 「やだ」 「じゃあ山でもいい!」 「だから嫌だって」 「えーっっ何で?!」 「何でってお前ね、俺を焼かす気? この俺の繊細で綺麗な白い肌を」 「んだよ、健康的になっていいだろ?」 「よくねぇよ。焼け死ぬ」 「死ぬかよ! なんだよ、不健康よりいいじゃん! このわからずや!」 「分からず屋で結構。邪魔すんなら帰れ?」 「んだよー本読んでるだけだろーちぇーこのインドア めー」 「分かってんなら誘うなよ」 そう言うと日暮は拗ねたように唇を尖らせた。てんでガキだ。しかしそれもものの数秒、懲りてはいない様子で再び顔を上げた。この大きな目から逃れられる方法を残念ながら俺は未だに知らないでいる。まぁだから、こんなとこで本なんか読んでるんだろうけど。 「じゃあさ、ひまわり見に行こうぜ」 「は?」 「知らね? 近くの植物園にあんだよ、ひまわり畑。そんなにでっかくねーけど」 「まだ咲いてんのかよ」 「大丈夫だって。先生言ってた」 先生に聞いてんのか。聞かれた先生はこいつの無邪気さをさぞかし微笑ましく思ったことだろう。俺と正反対だ。 「ひまわり、ねぇ……」 そんなのいちいち見に行く奴の気がしれん、と思ってたけど。 「ん、どした?」 くるん、と大きな目が一つ瞬きをして俺を覗き込んできた。 「あー……」 ひまわりだ。太陽に向かって咲くそれは、鏡のようにその光を映して回りを照らす。太陽に向かうはずのそれがなぜこっちを向いてるのかは謎だが。 本当にな。何で俺なんだろうね。 「まぁ、俺は毎日見てるからいいや」 「は?」 |
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